« 第15回空き瓶歌会 ゲスト選者 飯田彩乃さんからの全首評 | トップページ | 第15回空き瓶歌会 皆様からいただいた選評 »

2019年3月28日 (木)

第15回空き瓶歌会 橙田千尋さんからの全首評

橙田千尋さんから全首評をいただきました。

橙田さんは新潟在住の空き瓶メンバーで小説なども書かれる多才な方です。

今回は都合により参加いただけませんでしたが、いつもながら楽しく頷ける評をありがとうございました!

 

橙田千尋賞は、Eの髙木秀俊さんの歌でした!

 

***********************************

 

A.花塚山のはるか点なる富士の峰 朝霧晴るる唯我独尊花塚山は、福島県にある山らしいですね。上句は花塚山からでは富士山は点のように見え る(それほどまでに遠い)という意味合いでしょうか。福島から富士山が見えるのかどうかは 分かりませんが。

唯我独尊という宗教的な言葉が提示されているのは、朝に見る花塚山の荘厳さを表す狙 いがあるのかなと思います。荘厳なものを見ると、相対的に自分・人間の小ささが浮き彫り になってきて、宗教的・哲学的なことを考えてしまうのも何となく分かる気がします。

 

B. あたらしい花の匂ひをさせてゐるひとの手首を何回も嗅ぐあたらしい花が、いったい何なのかで一回立ち止まりました。あたらしい季節(現在なら 春)の花なのか、新しく買ってきた花なのか。新しく春の花を買ってきたのかもしれません。 <花の匂ひ>をさせているので、花を持っている可能性が高いと感じました。

下句の<手首を何回も嗅ぐ>ですが、手首を嗅げるほどの近さなので、主体と<花の匂ひ をさせている>人はある程度親密な関係性なのかなと思います。なぜ手首なのかは、花を持 った時に手首に花が当たっていたからでしょうか。そこまでは読み取り切れませんでした。

 

C. 交差点の弔いの花が枯れてゆく速度で君が忘れさられる交差点で起こった事故。そこに手向けられた花は人の死がそこで起こったことを示して います。最初は花を見て亡くなった誰かがいたことを思い出す人がいるのかもしれません が、花が枯れていくにつれ、事故の記憶も風化されていきます。<枯れてゆく速度>という 表現が好きです。少しずつ、しかし着実に枯れていく花と、少しずつ輪郭が薄まっていく記 憶がマッチしていると思います。

結句の<忘れさられる><さられる>は漢字でもいいのかなと思います。ひらがなに することで文字からくる悲しさは薄まりますが、歌の題材がかなり悲しいものなので薄める必要はあまりないのかなとも思います。

 

D. 燃えずとも炎のやうに山櫻ほのぼのと生きあざやかに散る山櫻が炎のように赤々としているところを写し取った歌でしょうか。<炎のやうに> すので、そこそこの数の山櫻が主体からは見えているのかなと思います。上句の格調高い文 体から四句目の<ほのぼのと生き>へ目が移動すると、<ほのぼの>が浮いているような 気がします。<あざやかに散る>と詠まれているように、散り際の美しさが主体に見えてい るので、生きている最中の美しさが<ほのぼの>になっているのは効果的なのだろうかと思いますが、主体の山櫻が見事に咲いているのを見た時の心持ちもこめられているのかな とも思いました。

 

E. 新宿を去らずにセイヨウタンポポはアスファルトからぽぽぽと芽吹くセイヨウタンポポの種がアスファルトの隙間や割れ目に落ち、芽吹いていく様子が描かれています。<新宿を去らずに>と詠まれているので、去らなかった<セイヨウタンポポ> とは対照的に去っていった誰かもしくは何かが暗示されています。それが主体とどういう 関係なのかは明示されていません(もしかしたら主体が新宿を去って、その後戻ってきたの かもしれません)。歌の中で詠まれたものも勿論大事ですが、結果的に詠まれなかったもの を考えることも重要なのかもしれません。去ったものが明示されない部分が、この歌の良さ なのだと思います。

<ぽぽぽ>というオノマトペは、少しファンシーな雰囲気をまとわせるような効果があ ると思うので、今回の歌ではこのオノマトペが最適解なのかと考えると疑問が生じます。オ ノマトペは無しで、別の言い回しでも歌の良さは崩れないのかなと思います。代案は思いつ かなかったので申し訳ないですが。

 

F.屋台を突き抜けたら五分咲きの桜七分袖は寒い 帰ろう正直なところ、どういうリズムで読めばいいのかかなり戸惑ってしまいました。やたいを つき/ぬけたらごぶざ/きのさくら/しちぶそでは/さむいかえろう 67567 でしょうか。 参加された皆様およびゲスト選者のお二人がどのようにリズムを解釈されたのかが気にな るところです。

屋台を<抜ける>ではなく<突き抜ける>なので、真っすぐの桜並木が想像できて良い なと感じました。まだ咲ききっていない桜と、まだ寒さが残る空気と、桜はどれくらい咲い たのか気になって出てきた主体(誰かと一緒なのでしょうか)が頭の中でイメージされて、春 になり切っていない日々が現れていると思います。

 

G.ふりはれてしろつめくさを手触りゆくあなたの翳のさやけき四月文語体の短歌に慣れていないので、単語の解釈に間違いがあるかもしれません。ご容赦ください。<ふりはれて>という言葉を調べてみたのですが、私の Google では上手く検索に 引っかかってくれませんでした。晴れて太陽の光が降り注いでいるのだと解釈しました。良い言葉だなと思います。しろつめくさの白と、<あなた><>のくっきりとした黒さが対比されていて、美しいなと思います。

しろつめくさと翳の対比は、主体が感じ取ったある瞬間の美しさの発見だと思います。対 して四月はひと月という長い期間です。結句の四月は瞬間の美しさの発見を結ぶのに適し ているのだろうか、とも思いました。

 

« 第15回空き瓶歌会 ゲスト選者 飯田彩乃さんからの全首評 | トップページ | 第15回空き瓶歌会 皆様からいただいた選評 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。